矯正治療中の口腔ケアが重要な理由
矯正治療は美しい歯並びを手に入れるための素晴らしい方法です。しかし、治療期間中は口腔内環境が大きく変化するため、通常以上に丁寧なケアが必要になります。特に矯正装置を装着すると、歯の表面に汚れが溜まりやすくなり、虫歯や歯周病のリスクが高まるのです。
矯正装置は食べかすや歯垢(プラーク)が付着しやすい構造になっています。装置の周りには細菌が繁殖しやすい環境が生まれ、放置すると口腔内トラブルの原因となります。
私は長年矯正治療に携わってきましたが、治療の成功には適切な口腔ケアが欠かせないことを実感しています。せっかく美しい歯並びを手に入れても、虫歯や歯周病になってしまっては本末転倒です。
矯正治療中は、自宅でのセルフケアだけでなく、定期的な歯科医院でのプロフェッショナルケアが非常に重要です。歯科医院では、専門的な器具と技術を用いて、自分では取り除けない汚れをクリーニングします。
矯正装置によって生じるリスクとは
矯正装置を装着すると、口腔内にはいくつかの変化が生じます。これらの変化は、適切なケアがなければ様々なトラブルにつながる可能性があります。
まず、矯正装置によって歯磨きがしづらくなります。ブラケットやワイヤーが邪魔になり、歯ブラシが届きにくい部分が増えるのです。特にブラケットの周囲や歯と歯の間は、通常の歯磨きでは汚れが残りやすい場所です。
また、マウスピース型矯正装置の場合は、1日20時間以上の装着が推奨されます。これにより唾液の循環が制限され、口腔内の自浄作用が低下します。唾液には細菌の繁殖を抑える働きがあるため、その循環が妨げられることで、歯垢や食べかすが口内にとどまりやすくなるのです。
矯正治療中に最も懸念されるリスクは、虫歯と歯周病です。装置の周りに歯垢が蓄積すると、酸を産生する細菌が増殖し、エナメル質を溶かして虫歯を引き起こします。また、歯垢が歯肉の縁に沿って蓄積すると、歯肉炎や歯周病の原因となります。
特に注意が必要なのは、矯正装置の下や周囲に生じる「脱灰」と呼ばれる現象です。これは虫歯の初期段階で、歯の表面に白い斑点として現れます。適切なケアがなければ、これが進行して本格的な虫歯になってしまいます。
効果的なセルフケア方法
矯正治療中の口腔ケアは、少し手間がかかりますが、適切な方法とツールを使えば効果的に行うことができます。ここでは、自宅で実践できる効果的なセルフケア方法をご紹介します。
矯正用歯ブラシの活用
一般的な歯ブラシだけでは、矯正装置の周りをきれいにするのは難しいです。矯正用に設計された特殊な歯ブラシを使うことで、ブラケットやワイヤーの周りの汚れも効果的に除去できます。
矯正用歯ブラシには、中央部分が凹んでいるV字型のものや、毛先が細かく分かれているタイプなどがあります。これらを使うことで、装置の周りや下の部分にもブラシの毛先が届きやすくなります。
歯間ブラシとフロスの併用
歯ブラシだけでは、歯と歯の間の汚れを完全に取り除くことはできません。矯正装置があると、さらに歯間部分の清掃が難しくなります。そこで役立つのが歯間ブラシとフロスです。
特に矯正用のフロススレッダーを使うと、ワイヤーの下にフロスを通すことができ、通常のフロスでは届かない部分も清掃できます。また、水圧を利用した口腔洗浄器(ウォーターフロッサー)も効果的です。
歯間ブラシは、ブラケットの周りや歯と歯の間の清掃に最適です。サイズは歯間の広さに合わせて選びましょう。小さすぎると効果が薄く、大きすぎると歯肉を傷つける恐れがあります。
フッ素配合歯磨き剤の使用
矯正治療中は、フッ素配合の歯磨き剤を使用することが推奨されます。フッ素は歯のエナメル質を強化し、虫歯予防に効果的です。特に矯正装置周辺の脱灰リスクが高い部分には、フッ素の効果が期待できます。
歯科医院で処方される高濃度フッ素配合の歯磨き剤やジェルを使用すると、より効果的です。使用方法は歯科医師の指示に従いましょう。
プロフェッショナルケアの重要性と頻度
自宅でのセルフケアに加えて、定期的に歯科医院でプロフェッショナルケアを受けることが非常に重要です。歯科医院では、専門的な知識と技術、設備を用いて、自分では取り除けない汚れをクリーニングします。
推奨される来院頻度
矯正治療中は、通常よりも頻繁に歯科クリーニングを受けることが推奨されます。一般的には1〜2ヶ月に1回のペースが理想的です。この頻度を守ることで、装置による物理的刺激から歯茎や歯を守り、清潔な状態を保つことができます。
ただし、個人の口腔状態や生活習慣によって、最適な頻度は異なります。たとえば、以下のような方は、より短いスパンでのクリーニングが必要かもしれません。
- 喫煙習慣がある方(歯周病や着色のリスクが高いため)
- 糖尿病や高血圧など、全身疾患による免疫力低下がある方
- 口呼吸の癖がある方
- 自己流のケアに頼ってしまいがちな方
担当の歯科医師と相談しながら、あなたに最適な頻度を決めましょう。
プロフェッショナルクリーニングの内容
歯科医院でのクリーニングでは、主に以下のような処置が行われます。
歯垢・歯石の除去(スケーリング)
超音波スケーラーやハンドスケーラーを使用して、歯の表面や歯間、歯と歯茎の境目に蓄積した歯垢や歯石を丁寧に除去します。これにより、歯肉の炎症や出血、歯周病の進行を抑制できます。
特にマウスピース矯正中は、歯列が動いている途中であるため、歯間が広がったり歯並びに変化が生じやすく、汚れのたまりやすい部位が変化します。そうした変化に対応した清掃が必要になります。
ポリッシング(研磨)
研磨ペーストと回転ブラシを用いて、歯の表面をつるつるに仕上げます。これにより、細菌やプラークが再び付着しにくくなるだけでなく、着色やくすみを予防できます。歯が本来持つ自然なツヤが回復することで、見た目の清潔感もアップします。
フッ素塗布
クリーニング後には、必要に応じてフッ素を塗布します。フッ素は歯のエナメル質を強化し、虫歯予防に効果的です。特に矯正装置周辺の脱灰リスクが高い部分には、フッ素の効果が期待できます。
矯正装置別のクリーニング方法
矯正装置にはいくつかの種類があり、それぞれに適したクリーニング方法があります。ここでは、主な矯正装置別のクリーニング方法をご紹介します。
ワイヤー矯正(表側矯正)の場合
表側矯正は、歯の表面にブラケットを装着し、ワイヤーで連結する最も一般的な矯正方法です。この装置では、ブラケットの周りや下、ワイヤーの周辺に汚れが溜まりやすくなります。
効果的なクリーニング方法としては、まず矯正用の歯ブラシを使用し、ブラケットの上と下に毛先をあてて磨きます。次に、ワンポイント歯ブラシや歯間ブラシを使用し、ブラケットの周りやワイヤーの下を磨きます。最後に矯正用フロスで歯と歯の間を磨くと良いでしょう。
特に注意が必要なのは、ブラケットの周囲です。ここに汚れが溜まると、装置を外した後に「ブラケット跡」として白い脱灰部分が残ることがあります。
マウスピース矯正の場合
マウスピース矯正(インビザラインなど)は、透明なプラスチック製のマウスピースを使用する矯正方法です。取り外しができるため、食事や歯磨き時には外すことができます。
マウスピース自体のケアも重要です。使用しないときは専用ケースに保管し、装着前には必ず歯を磨きましょう。マウスピースの洗浄には、ぬるま湯を使用し、専用の洗浄剤で定期的に洗浄することをお勧めします。
マウスピース矯正の大きな利点は、装置を外して通常通り歯磨きができることです。しかし、装着時間が長いため、装着前の歯磨きが不十分だと、マウスピース内で細菌が繁殖するリスクがあります。
また、マウスピースを装着したまま糖分の入った飲料を摂取すると、糖分が歯とマウスピースの間に閉じ込められ、虫歯リスクが高まります。水以外の飲み物を飲む際は、マウスピースを外すことをお勧めします。
矯正治療中に注意すべき食習慣
矯正治療中は、食習慣にも注意が必要です。特定の食べ物や飲み物は、矯正装置を損傷させたり、虫歯や歯周病のリスクを高めたりする可能性があります。
避けるべき食べ物
ワイヤー矯正の場合、硬い食べ物や粘着性の高い食べ物は、装置を損傷させる恐れがあります。具体的には以下のような食べ物に注意が必要です。
- 硬いナッツ類
- 固いせんべいやクラッカー
- 生のニンジンやリンゴ(かじりつくのではなく、小さく切って食べましょう)
- キャラメルやタフィーなどの粘着性の高いお菓子
- ガム
マウスピース矯正の場合は、装置を外して食事ができるため、食べ物の制限は少ないですが、食後の歯磨きを徹底することが重要です。
飲み物に関する注意点
糖分や酸を含む飲み物は、虫歯リスクを高めます。特に注意が必要なのは以下のような飲み物です。
- 炭酸飲料
- スポーツドリンク
- 果汁100%ジュース
- コーヒー(特に砂糖入り)
これらの飲み物を摂取する場合は、できるだけストローを使用し、飲んだ後はすぐに水でうがいをしましょう。マウスピース矯正の場合は、マウスピースを装着したまま水以外の飲み物を摂取しないようにしましょう。
クリーニングを怠った場合のリスク
矯正治療中に適切なクリーニングを怠ると、様々なリスクが生じる可能性があります。ここでは、クリーニングを怠った場合に起こりうる問題について解説します。
虫歯と歯周病のリスク
最も一般的なリスクは、虫歯と歯周病です。矯正装置の周りに歯垢が蓄積すると、酸を産生する細菌が増殖し、エナメル質を溶かして虫歯を引き起こします。また、歯垢が歯肉の縁に沿って蓄積すると、歯肉炎や歯周病の原因となります。
特に注意が必要なのは、矯正装置の下や周囲に生じる「脱灰」と呼ばれる現象です。これは虫歯の初期段階で、歯の表面に白い斑点として現れます。適切なケアがなければ、これが進行して本格的な虫歯になってしまいます。
歯周病が進行すると、歯肉の退縮や骨の吸収が起こり、最終的には歯を失う可能性もあります。特に矯正治療中は、装置が歯肉に刺激を与えやすいため、歯周病のリスクが高まります。
治療期間の延長
口腔内の健康状態が悪化すると、矯正治療の進行に影響を与える可能性があります。虫歯や歯周病の治療が必要になると、矯正治療を一時中断しなければならないこともあり、結果として治療期間が延長してしまいます。
また、歯の移動は健康な歯周組織があってこそ効果的に行われます。歯周病によって歯を支える骨が減少すると、歯の移動が難しくなり、治療効果が得られにくくなることもあります。
審美的な問題
クリーニングを怠ると、装置を外した後に審美的な問題が残ることがあります。特に「ブラケット跡」と呼ばれる白い脱灰部分が、装置を外した後も歯の表面に残ってしまうことがあります。
また、歯垢が蓄積すると歯の着色や変色の原因となり、せっかく矯正で美しい歯並びを手に入れても、歯の色や見た目に問題が残ってしまう可能性があります。
まとめ:美しい笑顔を守るために
矯正治療は、美しい歯並びを手に入れるための素晴らしい方法ですが、治療中の口腔ケアが非常に重要です。適切なクリーニングを行うことで、虫歯や歯周病のリスクを減らし、治療効果を最大限に引き出すことができます。
自宅でのセルフケアでは、矯正用歯ブラシ、歯間ブラシ、フロス、フッ素配合歯磨き剤などを活用し、丁寧なケアを心がけましょう。また、1〜2ヶ月に1回のペースで歯科医院でのプロフェッショナルクリーニングを受けることをお勧めします。
矯正治療は一時的なものですが、その結果である美しい歯並びは一生のものです。治療中のわずかな努力が、将来の健康で美しい笑顔につながることを忘れないでください。
当院「歯科・矯正歯科 GOOD SMILE」では、矯正治療中の患者様に対して、適切な口腔ケアのアドバイスとサポートを提供しています。矯正治療中のクリーニングについてご不明な点があれば、お気軽にご相談ください。
美しい笑顔は、健康な歯があってこそ輝きます。矯正治療中も、そして治療後も、適切な口腔ケアを続けることで、長期的に健康で美しい口元を維持しましょう。
詳しい情報や矯正治療に関するご相談は、山梨県甲府市徳行の「歯科・矯正歯科 GOOD SMILE」までお問い合わせください。専門ドクターによるチーム体制で、患者様一人ひとりに合った最適な治療とケアをご提案いたします。矯正歯科の詳細はこちらからご覧いただけます。
監修者情報
氏名:薄井 陽平 先生
略歴
・2001年3月 松本歯科大学歯学部卒業
・2001年4月 歯科医師免許取得
・2001年4月 松本歯科大学 歯科矯正学講座入局
・2001年4月 松本歯科大学 歯科矯正学講座医員
・2003年4月 松本歯科大学 歯科矯正学講座助手
・2004年4月 松本歯科大学 硬組織疾患制御再建学講座
臨床病態評価学博士課程入学
・2007年4月 松本歯科大学 歯科矯正学講座助教
・2009年6月 学位取得(歯学博士)
・2012年4月 松本歯科大学 歯科矯正学講座助教 教任期満了
・2015年10月 松本歯科大学 小児科学講座 非常勤講師就任