Home コラム 矯正治療における歯根吸収のリスク~原因と予防策を専門医が解説~
2026.02.26
コラム

矯正治療における歯根吸収のリスク~原因と予防策を専門医が解説~

矯正治療における歯根吸収のリスク~原因と予防策を専門医が解説~

矯正治療で「歯根吸収」が起こるメカニズム

矯正治療を検討される患者さんから、「歯の根が短くなる」という話を耳にして不安になったという相談を受けることがあります。

これは「歯根吸収」と呼ばれる現象で、矯正治療に伴うリスクの一つです。

歯根吸収とは、歯の根の部分が少しずつ溶けて短くなったり細くなったりする現象のこと。矯正治療では歯に力をかけて移動させますが、その過程で歯の周囲の骨が作り替えられます。歯が動く方向の骨は一旦溶けて無くなり、反対側では新しい骨が作られる……この「骨の吸収と添加」が繰り返されることで歯が動いていくのです。

本来は骨だけが吸収されるはずですが、まれに歯根までもが吸収されてしまうことがあります。

ただし、多くの場合は軽度の吸収で済み、歯の機能に大きな影響を与えることはありません。

重要なのは、この現象が起こりうることを理解し、適切な予防策を講じながら治療を進めることです。

歯根吸収が起こりやすい原因とリスクファクター

歯根吸収には、治療に関わる要因と患者さん個人の体質的な要因があります。

治療に関わる主な原因

矯正治療による歯根吸収のリスクファクターとして、まず「治療期間の長さ」が挙げられます。長期間にわたって歯に力がかかり続けると、歯根吸収のリスクが高まる傾向があるのです。

次に「歯にかける力の強さ」も重要な要因。強い力で急激に歯を動かそうとすると、歯根に過度な負担がかかります。研究では、重い力(225g)をかけた場合、軽い力(25g)と比較して歯根吸収量が多くなることが報告されています。

「歯の移動方向」も影響します。特に「圧下」と呼ばれる、歯を歯茎の中に押し込むような動きは、歯根吸収が起こりやすいとされています。同じ100gの力でも、圧下の方が挺出(歯を引き出す動き)よりも歯根吸収量が多いことが分かっています。

また、「ジグリング」と呼ばれる現象にも注意が必要です。これは歯にいろんな方向から力が加わり、歯が行ったり来たりして揺らされる状態のこと。無駄な動きや無駄な期間があると、このジグリングの期間が長くなり、歯根吸収のリスクが高まります。

個人的な体質やリスクファクター

患者さん個人の要因としては、「元々の歯根の形態」が大きく関係します。もともと歯根が短い、細い、先端が尖っているといった形状の場合、歯根吸収が起こりやすい傾向があるのです。

「外傷の既往」も要因の一つ。過去に歯をぶつけたことがある場合、その歯は歯根吸収のリスクが高まる可能性があります。

さらに、「根管治療を受けた歯」「歯根吸収の既往がある」「遺伝的な要因」なども関係すると考えられています。年齢や性別、喘息の有無、歯槽骨の骨密度なども影響する可能性が指摘されています。

どの歯に起こりやすいかという点では、上顎の前歯が最も歯根吸収が生じやすく、次いで下顎の前歯、下顎第一大臼歯の順となっています。

歯根吸収の発生率と程度~実際のデータから見る現実~

では、実際にどのくらいの割合で歯根吸収が起こるのでしょうか?

研究によると、矯正治療を受けた患者さんの全ての歯のうち、6~13%の割合で歯根吸収が生じています。ただし、その多くは軽度のもので、歯根吸収量の平均は「2.5mm以内」とされています。

一方で、4mmを超える、または歯根の1/3にまで達するような重度のケースも存在します。こうしたシビアなケースは全ての歯の1~5%の割合で生じるとされており、決して多くはありません。

重要なのは、歯根吸収が起きたからといって、すぐに歯が抜けてしまうわけではないということ。過去の研究では、矯正治療により歯根吸収を示した症例において、終了後最長で25年にわたり長期経過を観察したものの、歯根吸収の進行を示す所見は認められなかったと報告されています。

また、重度の歯根吸収を示した歯において動揺が認められたケースでも、機能的には問題がないという報告もあります。根尖の3mmの吸収は、歯槽骨頂の1mmの吸収に相当するという研究結果もあり、重度の歯根吸収が生じた歯であっても、実際の影響は限定的であることが多いのです。

装置の種類や治療方法による違いはあるのか?

マウスピース矯正とワイヤー矯正で歯根吸収のリスクに差はあるのでしょうか?

研究によると、マウスピースタイプの装置(2週間に1回交換)と固定式装置で軽い力(25g)をかけた場合では、歯根吸収量に差がないことが分かっています。一方、重い力(225g)をかけた場合は、どちらの装置でも歯根吸収量が多くなります。

つまり、装置の種類よりも「かける力の強さ」の方が重要な要素なのです。

治療方法による影響

「ストレートワイヤー法」と「スタンダードエッジワイズ法」、「セルフライゲーション」と「スタンダードエッジワイズ法」を比較した研究では、両者に差は無かったと報告されています。

興味深いのは、「治療の中断期間」の影響です。毎月連続で治療を行った場合と、途中で2~3カ月中断した場合を比較すると、中断期間なしの方が歯根吸収量が多いという結果が出ています。適度な休止期間を設けることで、歯根吸収のリスクを減らせる可能性があるのです。

また、「顎間ゴムの使用時間」も影響します。1日12時間使用した場合と24時間使用した場合では、24時間使用の方が歯根吸収量が多いという結果が出ています。

影響がないとされる要因

一方で、以下の要因は歯根吸収に影響がないとされています……

  • 使用するワイヤーの順番
  • アングル分類(噛み合わせの種類)
  • 外傷の既往
  • 抜歯をして治療しているかどうか
  • 角ワイヤーの期間
  • 顎間ゴムの使用期間
  • 小児矯正と成人矯正の両方を受けた場合と成人矯正のみの場合
  • 形成不全歯と健全歯
  • 根管処置歯と有髄歯

これらの研究結果から、歯根吸収のリスクは装置の種類よりも、力のかけ方や治療期間の管理が重要であることが分かります。

歯根吸収を予防するための治療計画と対策

では、歯根吸収のリスクを最小限に抑えるためには、どのような対策が有効なのでしょうか?

適切な力のコントロール

最も重要なのは、「適切な力で歯を動かす」こと。強すぎる力は歯根吸収のリスクを高めるため、弱い力で少しずつ歯を動かすことが基本です。

私たちの医院では、ニッケルチタンワイヤーなど弱い力で持続的に作用する装置を使用し、歯に過度な負担をかけないよう配慮しています。

無駄な動きを避ける治療計画

「非抜歯で治療してみて、ダメなら抜歯して治療する」という方針は、歯に無駄な動きを強いることになり、ジグリングの期間を長くしてしまいます。

治療開始前に、治療後どうなるかをできる限り正確に予測し、最初から適切な治療計画を立てることが重要です。これにより、無駄な動きや無駄な期間を最小限に抑え、歯根吸収のリスクを減らすことができます。

定期的なレントゲン検査

歯根吸収は初期段階では自覚症状がほとんどありません。そのため、定期的なレントゲン検査で歯根の状態をチェックすることが不可欠です。

当院では、治療の進行状況に応じて適切な間隔でレントゲン撮影を行い、歯根吸収の早期発見に努めています。万が一、歯根吸収が確認された場合は、治療を一時的に休止したり、力を弱めたりするなど、適切な対応を行います。

治療期間の適切な管理

治療期間が長引くほど、歯根吸収のリスクは高まります。効率的な治療計画を立て、必要以上に治療期間を延ばさないことも大切です。

ただし、早く終わらせようと強い力をかけるのは逆効果。適切な力で、計画的に治療を進めることが、結果的に安全で効率的な治療につながります。

患者さんの協力も重要

マウスピース矯正の場合は装着時間を守ること、ワイヤー矯正の場合は顎間ゴムの使用時間を守ることなど、患者さんの協力も治療期間に大きく影響します。

指示通りに装置を使用していただくことで、治療期間の延長を防ぎ、結果的に歯根吸収のリスクを減らすことができるのです。

歯根吸収が見つかった場合の対応方法

定期的なレントゲン検査で歯根吸収が見つかった場合、どのように対応するのでしょうか?

まず、歯根吸収の程度を正確に評価します。軽度の吸収であれば、治療を継続しながら経過観察を行うことが多いです。

中等度以上の吸収が認められた場合は、以下のような対応を検討します……

  • 治療を一時的に中断し、歯を休ませる期間を設ける
  • 使用するワイヤーを工夫し、歯にかかる力を弱める
  • 治療計画を見直し、歯の移動量を減らす
  • 場合によっては、ある程度の段階で治療を終了する

重要なのは、歯根吸収が見つかったからといって、必ずしも治療を中止する必要はないということ。多くの場合、適切な対応により治療を継続できます。

ただし、重度の歯根吸収が進行している場合や、歯の機能に影響を与える可能性がある場合は、患者さんと十分に相談した上で、治療のゴールを再設定することもあります。

歯根吸収が進行しても、治療終了後に吸収が進むことはほとんどありません。治療中の適切な管理と対応が、長期的な歯の健康を守ることにつながるのです。

まとめ~安全な矯正治療のために知っておきたいこと~

矯正治療における歯根吸収は、誰にでも起こりうるリスクの一つです。

しかし、多くの場合は軽度で、歯の機能に影響を与えることはありません。重要なのは、このリスクを正しく理解し、適切な予防策を講じながら治療を進めることです。

歯根吸収のリスクを最小限に抑えるためには、「適切な力のコントロール」「無駄な動きを避ける治療計画」「定期的なレントゲン検査」が不可欠。そして、万が一歯根吸収が見つかった場合でも、適切な対応により治療を継続できることがほとんどです。

矯正治療を検討されている方は、担当医とよく相談し、歯根吸収のリスクについても十分に理解した上で治療を始めることをお勧めします。不安なことや疑問点があれば、遠慮なく担当医に確認してください。

私たち専門医は、患者さん一人ひとりの歯を大切に守りながら、最良の治療結果を目指しています。安心して治療を受けていただけるよう、最新の知見に基づいた安全な矯正治療を提供してまいります。

歯科・矯正歯科GOOD SMILEでは、歯根吸収のリスクを最小限に抑えた安全な矯正治療を提供しています。矯正治療に関するご相談は、お気軽にお問い合わせください。あなたに最適な治療計画を一緒に考えさせていただきます。

 

監修者情報

歯科・矯正歯科 GOOD SMILE院長 薄井陽平

保有資格など 歯学博士
松本歯科大学 小児歯科学講座 非常勤講師
略歴 2001年3月 松本歯科大学歯学部卒業
2001年4月 歯科医師免許取得
2001年4月 松本歯科大学 歯科矯正学講座入局
2001年4月 松本歯科大学 歯科矯正学講座医員
2003年4月 松本歯科大学 歯科矯正学講座助手
2004年4月 松本歯科大学 硬組織疾患制御再建学講座
臨床病態評価学博士課程入学
2007年4月 松本歯科大学 歯科矯正学講座助教
2009年6月 学位取得(歯学博士)
2012年4月 松本歯科大学 歯科矯正学講座助教 教任期満了
2015年10月 松本歯科大学 小児科学講座 非常勤講師就任

ごあいさつ

はじめまして、GOOD SMILEの薄井です。歯・矯正に関することはもちろん、口腔内のお悩みなら何でもご相談ください。患者様のお悩みが解消できるよう、もっとも合う治療方法について一緒に考えさせていただきます。

Back To List

記事一覧に戻る

まずはお電話で
ご予約ください

初回予約は
こちら/